ソフトウェアの品質を学びまくる

ソフトウェアの品質、ソフトウェアテストなどについて学んだことを記録するブログです。

【本】これからの「正義」の話をしよ・・・ええ!?

 その本は、「科学をわかりやすくする」を標榜する本にありがちな「まえがき」から始まる──。
『確率的発想法』 P.3
 ここで確率と聞いて顔をしかめたなら、あなたは間違いなく学校教育の犠牲者でしょう。断じていいますが、「学校の確率」というのは、本物の確率ではなく、粗悪なイミテーションにすぎません。
 ・・・書名と同じくらい、退屈です。
確率的発想法~数学を日常に活かす

確率的発想法~数学を日常に活かす

 

  数学系ポピュラーサイエンスの類書としては、たとえば、『数学で犯罪を解決する』とか、『運は数学にまかせなさい』があります。確率について扱った本は多いので、「バースデイ・パラドックス」とか「モンティ・ホール問題」といった有名なトピックは、どうしてもかぶりがち。 

数学で犯罪を解決する

数学で犯罪を解決する

  • 作者: キース・デブリン,ゲーリー・ローデン,山形浩生,守岡桜
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2008/04/11
  • メディア: 単行本
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運は数学にまかせなさい――確率・統計に学ぶ処世術 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)

運は数学にまかせなさい――確率・統計に学ぶ処世術 (ハヤカワ文庫NF数理を愉しむシリーズ)

 

  今回紹介するこの『確率的発想法』は、タイトルも退屈だし、学者が同じようなトピックをつまらなく紹介しているのだろうな・・・と期待はしていませんでした。しかしその予想は、あさっての方向に裏切られました。

 目次を見てみましょう。
第7章 無知のヴェール
  • 所得という公共財
  • ロールズの『正義論』
 なん・・・だと・・・?
 確率と、正義。
 こんなに違和感のある組み合わせも珍しい。
 これはつまり、確率の本じゃありません。序盤で確率の話を紹介しながら、そのコンセプトを経済学・社会学・倫理学にまでどんどん拡張していく。聞いたことも考えたこともない話が盛りだくさんです。
 ロールズなんて、自分の無教養に呆れ返った大学初年度に読んだ『倫理学を学ぶ人のために』で出会って以来。久しぶりに引っ張り出して、その思想を復習してしまいました。
倫理学を学ぶ人のために

倫理学を学ぶ人のために

 

  たとえば、ベンサムの有名な言葉・「最大多数の最大幸福」。

 これを実現するためには、生産物を完全に平等に分配することが必要であるという「ベンサム&ピグーの定理」が、確率の考え方によって「証明」されます。もちろんこの「証明」は大いに単純化された素朴なものではありますが、社会における「平等」「正義」といった抽象概念が、シンプルな算数で表現される様は、あざやかなトリックを見ているようです。
 JARO臭が色濃く漂うまえがき、
 本書は数学をベースとして、日常のできごとから、経済、はたまた環境問題や社会設計の話題まで足をのばす、たいへん欲張りな本です。股にかける分野は、数学、当契約、経済学、論理学、社会思想と幅広く、また基本中の基本からここ10年ほどの最先端の研究まで縦横無尽に取り入れてあります。一冊で300年の耳学問がでるお徳用な本なのです(ちょっとおおげさかも)。
も、読み終わった後では、嘘でも大げさでも紛らわしくもない、正当な自慢とわかります。
 確かに耳学問ですが、章が進むに連れ徐々に難解・抽象的にもなり、じっくり考えないと理解できないレベルまで紹介してくれる。そんな良書です。NHK、いい仕事している。