数学。
得意にはほど遠いけど、日常で使うレベルならギリ何とかなるというレベルのわたしです。
ただ、算数や数学って、一度苦手意識を持つとずっとつきまといそうだなと思っていて、自分の子どもに紹介できそうな本はないかなと、タイトル&見た目で図書館を漁ってみたものを紹介します。
『数字マニアック』
サブタイトルにあるように、1から200までの数の特徴や、これにまつわるトリビアを盛り込みまくった本です。いや、よく200まで漏れなく集めたよな・・と感心する。
へえ~とうなるものもあれば、「いちいちよくこんなこと指摘したな」と笑ってしまうものもあります。
たとえば2。2は、
その綴りに「e」を含まないただひとつの素数でもある。*1
いや、そうだけど・・・
また、整数の特性として「偶数」「奇数」「素数」の他、「完全数」「結婚数」くらいまではメジャーだと思いますが、「名前つけたかっただけじゃないの!?」ってものも多いです。
たとえば、スミス数。
ある数の各桁の数字の和が、その数を素因数分解して現れた数字の和に等しい、という性質を持ちます。
具体例でみてみましょう。
166は、
1 + 6 + 6 = 13
166 = 2 * 83、2 + 8 +3 = 13 (ドヤァ)
いや、そうだけど・・・(再)
ケチをつけてしまったようですが、整数論だけでなく図形、スポーツ、テレビ番組など、いろんなところにいろんな数字が隠れているんだな~と楽しんで読めました。
わたしが一番気に入ったのは、「81」の項に出てくる問題です。
以下の不等式は、とても鮮やかに証明することができます。
(p2+p+1)*(q2+q+1)*(r2+r+1)*(s2+s+1) / p*q*r*s ≧ 81
『ロマンティック数学ナイト』
「エピソード」というと、数学にまつわる歴史的な小話という印象を受けますが、そうではありません。「ロマンティック数学ナイト」というイベントで語られた、プレゼンターが語る数学のお話集です。
数学のお話といっても、難しい話が延々と続くわけではなく、高級な数学への深い理解を前提にしたものでもありません。
一見数学とは関係なさそうな身近なものを数学の目で見るとどうなる?というお話であって、ものによってはかなりのおふざけ度合いでもあります。
「みんながおいしいというのは、最大公約数的な味である」という表現は何となく意味がわかる気がするけれど、ここでいう「最大公約数」ってなんだ?
「行けたら行く」という信用できない言葉を、記号論理学的に分析したらどういう結論になる?
たとえばこんな話を真剣に、あるいは軽快に論じる。数学のスパイスの利いた奇妙な話を楽しめる本です。
『武器になる「わり算」』
割り算って、四則演算の中でも特に、生活に根付いたものなんだなということに気づかされる一冊。
たとえば小学校で習う人口密度や速度、つまり「割合」は、その名の通り割り算から生まれてくるものです。
割合や比率はしばしば、「信頼できる数値データ」のような姿で、説得の材料にも使われます。数字に嘘やトリックがあるのは論外として、たとえ数値として正しかったとしても、だからといってそれに基づく論理が必ずしも正しいとは限りません。
たとえば有効求人倍率。
有効求人倍率 = 有効求人数 ÷ 有効求職者数
という数字が向上するのを見て、「就職しやすい環境になった」と言えるのか。
詳しく見てみると、「求人」が多いのは専門職である一方、「求職」が多いのは事務職であったりと、需要と供給がマッチしていない場合も多いといいます。
どちらかといえば、大人向けの算数の本といえます。
後半では、保険や投資、そして政治について、割り算をベースに語られています。こう見てみると、割り算、割合や比率といった数字が、身の回りのできごとに直結していることがよくわかります。
個人的には、しばらく見直していない、おそらくは無駄な保険について手厳しく分析されていたのがつらかったです・・・。
読むだけで楽しい 数学のはなし
今回読んだ中で、中学生でも楽しめそうだなと一番思ったのが、こちらです。
著者ご自身がまえがきに書かれている通り、「類似の本はすでに数多く世にあ」って、本書で扱っているトピックも目新しいものばかりではありません。サルが紡ぎだすシェークスピア、モンティーホールパラドックス、相関関係と因果関係、などなど。
ですが、これも著者のおっしゃる通り、「新しい切り口」が加えられており、一味違う面白い読み物に仕上がっています。
たとえば「マンホールのふたが丸い理由は?」という問い。
「フタが穴の中に落ちないように」と言われますが、本当にそうなのか。それは後付けではないのか。と疑問を呈しながら、そのまま定幅図形の話、お掃除ロボットの話へとつながっていく、という具合です。
トピックは数学ですが、言葉も表現も平易。わかりそうなところをつまみ食いするだけでも、「数学ってこんなところにも出てくるのかー」と感じてもらえると思います。
なお、「扇形のおきあがりこぼし」を左右にゆらした場合、頂点はどのような軌道を描くか、という話が面白かったです。
答えは意外、でも説明されると納得。直観と理性がうまく一致しない、不思議な話です。
オイラーの贈物
こちらは、たまたま同時期に読んだもの。まったくこども向けではありません。
帯も煽ってきます。
本邦初・本格的数学書の文庫化
予備知識、参考書、一切無用の完全独習書
数学美の頂点 eiπ=-1に誘う迫力の500ページ
「迫力」、まったく嘘ではありません。
まず、500ページもあるのに、それぞれのページの文字も行間も小さい。数式と表とグラフだらけ。「誰にでもわかるオイラーの公式」じゃないのです。「熱意と根気があればこの1冊で理解できるオイラーの公式」なのです。
であるからして。
まずは第Ⅰ部で、有理数・無理数、実数・虚数の説明から始まり、数列、方程式、微分、積分までを130ページかけて学びます。
さらに第Ⅱ部で、テイラー展開、指数関数・対数関数、三角関数を、219ページまでに学びます。
そんな生活を10余年続けて、気が付けばもう若くない・・・234ページ・・・
そういうページになって初めて導出できる公式が、オイラーの公式(Euler's formula)なんだ。
この機会を逃したら、オイラーの公式なんてもうおまえには生涯 手にできない・・・!
オイラーの公式は大作・・・大作なんだ・・・!
・・・すみません、利根川先生が乗り移っていました。
そう、234ページでようやく、
eiθ = cosθ + i*sinθ
が得られ、θ=πのとき、おなじみの
eiπ = -1
が導かれます。
このように、もっぱら硬派な本書なのですが、それは無味乾燥を意味しません。ところどころに挟まれる注釈に、著者・吉田武氏の人間性や主張が垣間見えるのです。
この公式が出た後の「注意」を読んでみましょう。
右辺を移項して、eiπ + 1 = 0 と書けば、さらに要素が加わって、e、π、i、1、0の五大定数の関係となるので、より素晴らしいとする向きもある。確かに一理ある。しかし、この「方程式風味の表現」は、たとえ数学的には等価であっても、eのiπ乗が整数値(-1)に等しくなる、という不思議さが滅殺されているのではないか。所詮、美意識の違いにしか過ぎないだろうが、本書ではこれを採らない。
わたしはもともと「=0」派でしたが、これを読んで意見がすっかり変わりました。
3つの、何の関係もなさそうな特別な数字が、-1というきわめてシンプルな数字に束ねられてしまう。そういうことがわかる「= -1」の方が、確かに美しいと感じます。
ちなみにTwitterアンケート(有効投票12票)によると、「-1」派が42%、「=0」派が58%となりました。おおむね拮抗といえるのではないでしょうか。
オイラーの公式、どちらの表現の方が美しいと感じますか?
— Kazu SUZUKI (@kz_suzuki) 2021年3月6日
それにしても、常軌を逸した本です。2の平方根の値4,000桁を1ページに収める文庫本ってありますか?
この『オイラーの贈物』の古文版が、小西 甚一・著の『古文の読解』と言えるでしょう。
これまた大学受験生向けということになってはいるのですが、受験国語の一分野に過ぎない古典に、これだけの熱量を注ぐ者がどれだけいる?というほどの丁寧さとロジックをもって、古文を解読していきます。
いや、ロジックといっても、古語の動詞の文法的活用とか、「たらちねのといえば母!」みたいな、受験勉強的暗記ルールではないですよ。「文章を解きほぐして地道に推論していくと、このように理解できる」という展開のことを言っています。
ちくま学芸文庫は本当に恐ろしいです。
どちらの本にも、吉田武氏のこの言葉がぴったりでしょう。
本書に即効性はない。じっくり、のんびり楽しみながら読んで頂きたい。
本来、勉強ってそういうものなんですよね、きっと。
*1:2以外の素数はすべて奇数であり、one、three、five、seven、nine、eleven、... には「e」が含まれる。