ソフトウェアの品質を学びまくる

ソフトウェアの品質、ソフトウェアテストなどについて学んだことを記録するブログです。

悪意あるベンダーが跳梁する世紀末IT業界を生き抜く

 ITシステムに関する契約は、契約・発注・指示・検収・支払いを各部門が分担して行っており、全体像がよくわからない・・・。納品とか検収とか、請負とか準委任とか、瑕疵担保責任・善管注意義務とか、言葉は知っていても「詳しく・正しく」と迫られるとちょっと・・・という人にオススメの本がありました。
トンデモ“IT契約

トンデモ“IT契約"に騙されるな

 

 黒地にピンクフォントです。自己啓発本っぽい・・・。

 本書では、ITシステムに関する契約について、契約分割の是非、契約の形態ごとのITベンダー側の責任、損害賠償、著作権、SLA・・・といった幅広いテーマで、契約のポイントや注意点・リスクを説明しています。法律に関わる内容ですが、文章は平易でわかりやすい。
 ぼんやりと理解していたことでも、あらためて正確なところを知ると、なるほどな~とため息が出ます。

たとえばこんな事例

 たとえば本書の第16章に、こんな事例が。
 以下の条件で発注しているとします。
  • ユーザ企業がITベンダーから納品完了後、2週間以内に検収を行う
  • ITベンダーは検収合格の通知を受け取ってから、請求書を発行する
  • ユーザ企業は請求書受領月の翌月末日に代金を支払う

 この条件で、2月20日に納品され、2週間後の3月5日に検収が完了、同日に請求書を受け取って、4月30日に支払いを行ったとすると・・・。

 これは納品から60日以上が経過しているため、下請法違反。あっ!と思いませんか?ぼくが法律に疎すぎるだけなのかしら?

うめくさも高品質

 こういう実用書は、章と章との間にはさまれるコラム的な文章が絶望的につまらないことが多いのですが、本書はそこまで配慮が行き届いていると感じました。熟読の価値あり!
 一番驚いたのは、第13章のコラム。法律の世界においては、「及び」と「並びに」に区別があるというのです!
同じ種類の文言を二つ以上並べる場合は「及び」を用いる。これに対し「並びに」は、異なる種類の文言を並べる場合に用いる。

 これだけ読んでもわかりづらいのですが、次のような式になるそうです。

「A及びB並びにC」 = ( A 及び B ) 並びに ( C 及び D )

 分配法則!!

 あくまで法律用語ですから、日常語としては同じ意味として使っていいのかもしれませんが、これを知ってしまうと迂闊に使えないなあと思いますね。「又は」と「若しくは」も違うらしい。

「ITベンダー」って・・・

 ちょっと気になるのは、本書がユーザ企業の立場で書かれている点。
 タイトルの「騙されるな」にもあるように、基本的にITベンダーは悪意をもってるぜ!的な性悪説ムードが漂いまくっています。
 ITベンダーってのは、経産省策定のモデル契約書にしたがっていると言いながら、大事な条項を省いたり、怪しい一文を滑りこませたりと、油断ならない詐欺集団だ!とまでは言ってませんけど、すべての文面に注意を払わないと大変なことになるぜと脅してくる・・・。
 住宅の防犯に関する知識が、そのまま裏返して空き巣の手口紹介になって悪用されるリスクがあるように、ユーザ企業がだまされそうなポイントを紹介している本書は、悪意あるITベンダにとっての悪意ある契約の指南書になってしまうんじゃ・・・と思うくらい、本書のITベンダーはアクドイです。
 なお本書は、ITproの連載をベースにしたものなので、興味を持たれた方はご一読を。

itpro.nikkeibp.co.jp