ソフトウェアの品質を学びまくる

ソフトウェアの品質、ソフトウェアテストなどについて学んだことを記録するブログです。

【本】中国の科学は先行者に先行する

 「先行者」というスーパーロボットを覚えていますか?20世紀末に中国で開発された「最先端ロボット」のことで、「侍魂」というサイトでの紹介により、爆発的な人気を誇ったものです。
 このロボットが、当時の中国の本気だったのかどうかは未だにわかりませんが、今の中国の本気がいかなるレベルかは、この本を読めばわかります。
「科学技術大国」中国の真実 (講談社現代新書)

「科学技術大国」中国の真実 (講談社現代新書)

 

  筆者の伊佐進一氏は、北京の日本大使館で働く、科学技術担当の一等書記官。日本にいてはなかなか知りがたい中国の現実を、余すところなく伝えてくれます。

 冒頭にもあるように、中国は、独力で宇宙に人を送りこむまでの科学技術を持っている一方で、「こんな国で科学が発達するのか?」と首を傾げてしまうような側面も持つ国です。
『「科学技術大国」中国の真実』 P.51
 広大な土地と、13億の人口を有する中国においては、「平均」という言葉が意味を成さない場合が多い。つまり人口1人当たりのGDPを比較して中国の経済規模を評価すれば、沿岸部における富の集積を見誤るであろう。また、平均進学率を見て中国の教育制度を過小評価してしまえば、とびぬけて優秀な人材の蓄積を見誤る。
 あくまでイメージですが、簡単な図を書いてみました。

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 縦軸は人数。横軸は、収入でもいいし、受けた教育のレベルでもいいでしょう。
 ともに正規分布を描いていますが、3つの特徴があります。
  1. 現在のところ、平均(正規分布の中心)は、日本の方が高い。ただしこの平均が右に移動する速度は、中国の方が早い。
  2. 偏差(中心からの外れ具合)は、中国の方が広い
  3. 全体の人口(曲線の下部分の面積)は、中国の方がはるかに大きい
 この(2)(3)は、正規分布の裾において、(1)の優位性をなぎ倒します。トップレベルの人材に限定していえば、中国が日本に大きく劣っているなどということはありません。
 これに加え中国は、政府が非常に強い国。トップダウンで研究費にカネとヒトをつぎ込み、理系の人材が報われる社会になっていることがよくわかります。中国の法律では、「国家財政における科学技術経費の増加率は、財政収入の成長率を上回らなければならない」との規定があるそうです。
 ただ、これらをもって中国スゴイ!と礼賛に終始しないのが本書。
 たとえば興味深いものとして、スパコンの話があります。
 2010年6月のスパコンランキングで、中国の「星雲」は1.27Pflopsで、米国の「Jaguar」に次いで世界2位に踊り出ました。最新情報だと、2010年11月の発表ではこの星雲、何と世界1位になっています。確かにこれ自体はすごいことです。
 ただ、接続した多数のCPUを単純に足し算した性能と、実際に出ている性能の比を見ると、星雲では42.6%。つまり本来持っている性能の半分も活かせていないということになります。
 一方6月に22位だった富士通製のスパコンではこの比率が95.7%。同37位だったNEC製の地球シミュレータも93.1%と、非常に優れていることがわかります。
 もちろん、これをもって「やはり中国は数字ばかり一人歩きしている国だ」などと侮るのではなく、逆に数字だけ見て降参してしまうのでもなく、表と裏をしっかり見定めよ、ということですね。
 当たり前のことですが、日本国内での報道だけでは知りがたい実情を、本書は教えてくれます。
 終盤では、この躍進する国・中国と、日本はどのような協力関係を築くべきかという提言がなされています。「中国を一人勝ちさせない標準化戦略」の章は、特に日本のメーカーが刮目して読むべきものだと思います。
 世界の政治・経済を概観し、日本の現状をつかむための素材として、ついでにもう1冊。
ハーバードの「世界を動かす授業」 ビジネスエリートが学ぶグローバル経済の読み解き方

ハーバードの「世界を動かす授業」 ビジネスエリートが学ぶグローバル経済の読み解き方

 

  ついで扱いするには勿体ない内容ですが、ハードカバーを好まないという個人的な理由で★×3にしておきました。新書なら即買います。

 本書は日本向けに書かれたものなのか、まずは戦後から現在までの日本の概説に始まり、成長著しいアジア諸国、メキシコ・南アといった伸び悩む国々、中東などの資源国、そしてEUと、いくつかの「軌道」ごとに主要国の経済状況を俯瞰していきます。そこでまず思い知るのは、「成長期の日本がどれだけすごかったか」ということです。
『ハーバードの「世界を動かす授業」』 P.29
 1954年から1971年の長期にわたり、日本は実体経済を年に10.1%成長させたのだ。これはまったく信じられないことだった。いまだにシンガポール、中国、インドなどが実現できていない、世界経済史上、最高最長の成長率である。
 日本はどのようにそれをやり遂げたのだろうか。確実で綿密な戦略をもって、国民、企業、国家すべてが一体となって成し遂げたのである。この驚くべき戦略はアジアで初の輸出主導戦略であり、時刻の組織構造と国内状況にマッチした、研ぎ澄まされた戦略であった。
 高度成長期が終わった後に生まれたわたしには、まったくピンときません。政治家や官僚が大局的かつ精緻な戦略を練り上げ、それを実行に移すことで成長が遂げられたなどという時代が、現代からはあまりにも想像しがたいのです。
 いわゆる「勤勉な日本人」が地道にがんばり、またタイミングにも恵まれたため、運良く成長できた、という程度にしか考えていませんでしたが、本書を読めばそうでないことがわかります。
 しかし、ノスタルジーに浸っている暇はありません。そもそも多くの人にとって、高度成長などノスタルジーですらない過去の話。国民のみなさんが、それぞれの力を活かしてがんばっていこうではありませんか、みなさん!(鳩山前首相の空虚な呼びかけ口調で)