ソフトウェアの品質を学びまくる

ソフトウェアの品質、ソフトウェアテストなどについて学んだことを記録するブログです。

2023年後半に読んで特によかった本

2024年になりました。新年、あけましておめでとうございます!
2023年の後半に読んだ本を振り返って、よかったな~と思うものを記録しておきます。

ソフトウェア開発

システム障害対応の教科書

ITシステムの障害対応は、「有期であり」「ユニークである」という特徴を考えると、プロジェクトの一種として捉えることができます。しかし、通常のプロジェクトと大きな違う点があります。それは、「納期が、”とにかくできるだけ早く”である」という点です。
この性質のために、中堅が若手に「じっくり教える」「やらせてみる、失敗も経験させる」というトレーニングが難しい。また皮肉なことに、安定しているシステムであればあるほど、システム障害を経験する場には恵まれないという逆説的な状況になります。

では、徒手空拳で体当たりするのか。それでは、「プロジェクト成功」は望めませんよね。 『システム障害対応の教科書』では、大きな障害が起きた時にどのように対応すべきかを広く説明しています。

広く、といっても、当たり障りのない表面的な情報の羅列ではありません。
たとえば、「事態が終息したら、顧客にも対応メンバーにも明確に宣言して解散する」といった地味ながら大事な話が、しっかりと書かれています。
リーダーの中では終息していても、その感覚は意外に、個々のメンバーには伝わっていないもの。リモートワークならなおさらです。そしてメンバーからは「もう終わりでいいですか? 寝たいです」なんて言いづらい。リーダーや他の人が言い出すのを、ひたすら待っていたりするんですよね。

このような、ある意味小さな、でも重要なことも含めて、ノウハウが詰め込まれています。システム障害の現場での深い経験を持ち、多くの成功と失敗をしてきたのであろう人だからこそ書ける、良書だと思います。

プロジェクトのトラブル解決大全

『システム障害対応の教科書』がOperationに当たるとすると、Developmentのトラブルにはどう対処すべきでしょうか。
『プロジェクトのトラブル解決大全』があります。

このところ、「大全」という言葉がマーケティング目的で付けられているようで敬遠しているのですが、この本はとても好きです。
一歩間違えたら「根性論」「昭和」「ブラック」と指弾されてもおかしくないことを、恐れずにしっかり書いている。トラブル解決は、そのくらい大変なんですよね。

この本が教えてくれることを3つ挙げるとすると、以下です。

1. 炎上プロジェクトは、平和なプロジェクトの延長線上にある

著者自身が書かれていることですが、本書で説明されていることの多くが、炎上「前」からやっておくべきことです。炎上してから急に必要になるスキルがたくさんあるのではなく、そもそも炎上させないようにするスキルが、炎上の現場ではより強く求められるということなんですよね。

平和なプロジェクトに、ポツポツとボヤが起こり始め、それを放置すると本格的な炎上になる。その前に、小さなボヤを、ボヤのまま鎮火するためのスキルが、本書には書かれています。

2. 根性論・精神論と言われようとも、「腹をくくる」のが第一歩である

本書で説明される「火消術」は、進捗管理やプロジェクト管理といった、ある意味ペーパーワーク的なものだけではありません。人と、その気持ちありきです。炎上プロジェクトに関わる人たちの中に飛び込み、協力をとりつけ、モチベーションを平常レベルに戻す。そのために何ができるかということが、事細かに説明されています。

3. リーダーのゴールは、メンバーに好かれることではない

リーダーも人間ですから、できればメンバーと仲良くなり、明るい雰囲気で仕事がしたいもの。「好かれたい」「嫌われたくない」という気持ちはどうしても消せない。でも、それだけでは炎上プロジェクトは(そして普通のプロジェクトも)うまくは回らないんですよね。

終盤に書かれた以下の言葉も、とても身に沁みます。

いくつもの炎上プロジェクトを経験してきて私が思っているのは、
・ミラクルはない
・飛び道具はない
・地味なことを地道にやるしかない

社会

軌道

今年は「失敗」についての本を何冊か読んだのですが、その過程でお勧めいただいた本です。

JR福知山線の事故を、組織の問題ではなく個人の問題であるとし、企業の責任を認めようとしないJR西日本。一方、個人や会社の誰かを罰するためではなく、二度と同じことが起こらないようにするために「何が起きたのか」「何が原因だったのか」を突き止めようとする遺族。意見の相違ではなく、目標とするところがまったく食い違っている中で、「根本原因の究明」「再発防止策の特定」のために粘り強く戦う姿が描かれています。

正直、読んでいてとても苦しくなる場面もあれば、胸が悪くなるような描写もあります。遺族の心情を追体験させられているようで、読んでいてしんどいものがあります。
それでも、結果や成果だけを情報としてキレイに整理して渡されても、組織に文化を、中でも「失敗を教訓として生かす文化」を定着させることの本当に難しさは、その断片すら理解できないのではないかと思います。

失敗の科学

失敗の科学

失敗の科学

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「失敗」全般を学ぶ本としては、なぜ失敗が起こるのか、その失敗をなぜ生かせないのかについての幅広い研究をまとめた、『失敗の科学』をお勧めします。
面白い見解やエピソードが満載なのですが、たとえば第4章は、人がミスを認めない理由について扱っています。

「ミスを認めない」というと、その人の不誠実さだったり不勉強に起因するものと思ってしまいがちなのですが、そもそも人間には「最初に信じていた意見から離れることが難しい」という性質があるそうです。
無実の人間に対して、有罪と信じた司法長官が、「無実の容疑者は少ない。無実なら、そもそも容疑者にはならない。よって容疑者は有罪だ」という無茶苦茶な論理を押し通そうとする例や、大洪水の予言を外したカルト教祖に対し、信者の信仰がより深まる例などが紹介されています。

失敗の性質について広く学びたい方は、ぜひ。

学問

言語沼

わたし、専門外の学問を一般の人向けにおいしく味付けしてくれたような本に弱いです。
実際の言語学(というか学問全般)は地味で地道な仕事・調査の連続なんだろうけれど、『言語沼』その一番おいしい上澄みのところを堪能できます。

特に気に入ったのは、第6章の格助詞ネタです。

  • 「平和な現代を生きる」
  • 「平和な現代に生きる」

この2つを比べると、後者の方がしっくりこないでしょうか? 一方で

  • 「食うか食われるかの乱世を生きる」
  • 「食うか食われるかの乱世に生きる」

だと、前者の方がしっくりきませんか?
一体どのように説明できるのか、気になる方はぜひ本書を! 素晴らしく面白いです。

なお同じ言語学関連で、ネタも若干かぶるのですが、『なぜ、おかしの名前はパピプペポが多いのか?』は小学生向けの説明のためにポケモンやプリキュアを題材にしている点で、別の面白さがあります。

文学

茨木のり子詩集

すべての作品が大好きというわけではないのだけれど、ハッとさせられる力強い言葉が多いです。何となく、生きることが惰性になってしまっているこの歳だからこそ、読んでよかったなと感じます。

異色なのは、先に亡くなった夫への気持ちを綴った詩集、『歳月』からの歳月。他の詩集はどちらかというと、「強い女」としての茨木を感じるのですが、『歳月』だけは「夫の対となる妻」としての茨木なんですよね。
胸に迫るものがある詩が多く、詩集自体がほしいのですが、新品は出回っておらず、中古でも5,000円近くするのですね・・・。

ビジネス

採用基準

採用基準

採用基準

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湯本剛さんが講演で言及したこともあり、QA界隈で俄かに人気が急上昇した『採用基準』。

たしかに採用についての本ではあるのだけれど、軸にあるテーマは「リーダーシップ」だと思います。
企業面接で「あなたがリーダーシップを発揮した場面を教えてください」ってありがちで、あまり好きではなかったのですが、なぜそれを企業が求めるか少し理解できたように思います。

「リーダーシップとは、一握りのカリスマだけでなく、構成員みんなが具えているべき能力である」というのが主張の根幹。「これは自分の役割ではない」と「役割」にこだわって、文句だけ言っているような人ばかりだと、成功にはおぼつかないと断じています。

卑近な例がすごくわかりやすいです。
会議で持ち寄ったお菓子が多少余った時に、「お子さんのいるご家庭など、持ち帰りたい方はいますか?」と提案したり、タクシー待ちの長い行列で「同じ方向の方乗り合いしません?」と声を上げたりすること。これがリーダーシップ。

こんなのリーダーでも何でもないと感じるでしょうか?
「なるほど」となった方にも、「え?」となった方にも、ぜひ読んでいただきたい本です。

フィクション

三体0【ゼロ】 球状閃電

三体3部作のメインキャラである科学者の若い頃を描いたもの。本編がすでに完結しているだけに、そこまで期待していなかったのが正直なところですが・・・
魅力的なガジェットが全編を通して主題になっているとともに、本編にしっかりつながる伏線。「その話につながるのか! やられた!」となりました。
SFの一番おいしいところを堪能できる作品だと思います。

また、分厚いSFなのに読みやすい。原著者の文体と翻訳者のなせる業ですね。ありがたいことです。

ダーウィンズゲーム

スマホに突然届く「ダーウィンズ・ゲーム」の招待状。高校生・カナメは、わけもわからぬまま異能バトルに巻き込まれていく・・・というあまりにド定番な導入
異能バトルモノに弱いわたしは、主人公補正の強さや能力のバランスの悪さを感じながらが淡々と読み進めていたのですが・・・、途中から様子が変わってきて、後半から「え? これこういう展開になるの!?」となっていきます。

2023年の秋に完結したようですが、まだ読み終わってません! 残りを読むのが楽しみです。
やっぱり、異能バトルものには男子の夢が詰まっているよ。

おわりに

2023年もけっこういろんな本を読んだなーと思いますが、やっぱりどこかで視野が狭められているんだろうなと思います。
突拍子もないところから本を勧めてくれるサービスとかあったら楽しそうですね~。
今年も読書を楽しみます!

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