上期に読んだ本の中で特によかったものを、Twitterに放流した感想を流用しながら、紹介していきます。
技術書もたくさん挙げられるといいのですが、技術書って「読み終わる」じゃなくって、「読み続ける」感じなので、完結したレビューが書きづらいんですよねー・・・。
IT技術系
脅威インテリジェンスの教科書
コンピュータ・ソフトウェアのセキュリティだけではなく、もっと広く人的・組織的な側面も含めてのセキュリティ・脆弱性・インテリジェンスを説明した本。物理的にけっこういいサイズですが、例も豊富で説明もわかりやすいです。
技術面に徹しているわけではなく、たとえば集めたデータを情報・インテリジェンスに昇華していく際に陥りがちな、心理学的誤謬といったものにまで言及があります。ソフトウェア開発者だけでなく、コーポレートセキュリティを守るような立場の人間が読むのにもよいと思います。
ビジネス系
アナタはなぜチェックリストを使わないのか?
この本は今期読んだ本の中でかなり上位のお気に入りなので、個別の記事を書きました。
2030 半導体の地政学
半導体の技術的な説明だけではなく、またそのビジネス的な側面だけでもない。「地政学」と銘打っている通り、国が生き残るために半導体がどれだけ重要な役割をもつか、主要国はどう動いていて、日本はどうすべきなのかをしっかりと説明した本。
半導体というと日本はすっかり負け組という印象があり、実際そういう面もあるのだけれど、素材やパーツで強い企業はまだまだあり、また半導体サプライチェーンを確保するための日本の戦略も議論されていることがわかります。
終章からの引用。半導体は単なるビジネス商品じゃなくて、文字通りの「戦」略物資なんですね。
半導体は”武器”であり、半導体サプライチェーンで連携すること自体が地政学的な国家戦略となる。クアッドに限らず、さまざまな国の組み合わせで「半導体同盟」とも呼べる連携が進んでいくだろう。インド太平洋、とりわけ環太平洋、そのなかでも南シナ海が主戦場となる。
文章も比較的平易で読みやすい。前提知識も特になし。普段の仕事で半導体なんか関わりないって人にもオススメです。
ただし、半導体についての一般的な知識はあることを前提としているので、技術面を補完してくれる本があるといいなーと思いました。
プロトタイプシティ 深センと世界的イノベーション
それなりのボリュームのハードカバーなのに非常に読みやすく、ぐいぐい引き込まれる。
なぜ深圳は強いのか。イノベーションを起こすために日本に必要なのは何か。ということが丁寧に説明されている。決して「深圳はすごい、日本は凋落した」というトーンではない、叱咤激励してくれる本。
ソフトウェアQAとしては、第2章のこの話がよかったです。
「上司にソフトウェアの品質テストをどうするか聞いたんだが、『新しい機能が動くかどうかのテストをする前に、新しい機能が世の中に受け入れられるかのテストの方が重要』って言われたんだよ」
これっていわゆる「リーン」「MVP」みたいなものですかね。まず出す、出して仮説検証して、・・・みたいな考え方が、徹底されている。
中国で起こるイノベーションは、「先進国に中国が追いついてきた」ということではなく、社会制度も文化も考え方もまったく違うところで、別の道から突っ走ってきているのだという印象を受けました。
日本人のためのインド英語入門 ことば・文化・習慣を知る
ネイティブの英語も大して聴き取れていないけれど、インド英語はまた独特でわたしには難しい。そんなときにTwitterで見かけて、読んでみました。
最初の方で 「インド訛りの英語があるのではなく、インド英語という多様化した英語があるのだ」(意訳) という話があり、これは目から鱗でした。ネイティブっぽい発音や流暢さにシビれたり憧れたりするけれど、違ってもいいのかなーと。
彼らはインド式の英語の発音や抑揚の仕組みを確立し、それをうまく使いこなすことに成功しました。イギリス式の音韻体系を厳密に模倣する必要がなくなった分だけ、語彙や表現や構文よ学習に努力と注意を集中することが可能になったのです。
インド人と英語でやりとりする機会のある人は、この本の第1章読むだけでも十分楽しめると思います。発音の特徴についての説明が特に役に立つのだけど、全体的にあまり教科書的ではなく、インド英語、そしてニホン英語に対する熱い気持ちが伝わってくる本です。
エッセイ・その他
6ヵ国転校生 ナージャの発見
「A国はこうなのに、日本はこうだからおかしい、硬直的、前時代的、・・」みたいに責められるのでは・・・とついつい警戒してしまうんだけれど、それがない。読んでいて、変な優越感や劣等感を感じさせない。優劣ではなく、それぞれの文化でどこに重きをおくかによって、選んだものが違うんだと教えてくれます。
たとえば、ノートに使う筆記用具。 ロシアではペンだったのに、イギリスは鉛筆。鉛筆で書くのは、下書きのようで納得がいかない。
でも今は、こう解釈できる。
えんぴつを使って「書きやすく」するのか、ペンを使って「考えやすく」するのか、実は書く道具がそのプロセスを決めるのだ。
数字の「フォント」の話も面白かった。
ロシアなどヨーロッパでは、「7」の縦部分に横棒を入れるのが一般的。理由は、先端に折り曲げのある「1」と区別するため。「1」の折り曲げをなくすと、今度は「l」と競合する。仕方なく、日本向けとそれ以外で、数字フォントを使い分けたという・・・。
こんな話が盛りだくさんで、一方でコンパクトにまとまってもいるので、中学生くらいで読むと楽しめるかなと思いました。
エピローグに書かれたこの言葉が、とってもよくわかります。
「環境が変わると、ガラッと変わるものは?」
答えは、「ふつう」だ。
100均グッズ改造ヒーロー大集合
その辺で売ってる大量生産品のデザインを活かして、ヒーローとしての造形に仕立て上げる、だけではなく、素直にカッコいい。燃える!
写真集なので写真を紹介したいけれど、そういうわけにもいかないから、まずは著者のTwitterを見ていただきたい!
関西テレビ「スローでイージーなルーティーンで」で作品が紹介されます。
— 安居 智博 (@kami_robo_yasui) 2022年8月24日
放送日 2022年8月25日(木)14:45〜15:45
(急なニュースが入った場合、変更になることがあります) pic.twitter.com/ETfHB5dmqt
フィクション
翼はいつまでも
中学生を主人公とする青春小説、ということで、「たぶんムズムズしちゃって読めないだろうなあ」と思ったけれど・・・良い。
「はい、ここで泣いてくださいね~」式ではない、教師たちの理不尽さ、大人への反発をもちながらも、自分の在り方を少しずつ変えていく少年の話。
出てくる教師は本当に、ビックリするほどひどいんだけれど、彼らは彼らなりに若すぎたり、理不尽さんに押しつぶされたりしているんだろうなと。完全に中年目線。
あまりにキラキラしていて、中年には眩しすぎる。それでも、そんなくすんだ大人でも、このキラキラならきっと受け入れられる。
長男にも進めようと思ったんだけれど、「セックス」という単語が頻出しすぎて、気恥ずかしくて勧められない。勧めるなら、高校生になってからかな。
殺戮にいたる病
「どんでん返し」系の小説を読みたいなーと思って選んだこの本。知らずに読んだらどんでん返された、ならともかく、この本は最初から「叙述ミステリの極致!」なんて言っちゃってる。確かに、ちょいちょい違和感(もちろん作者に意図的に仕込まれた違和感)はあるんだけど、ほとんど最後までトリックがわからなかった。
叙述トリック系は一度読むとタネはわかっちゃうけれど、再読して初めて気づく巧妙な記述に気づくのが楽しいですね。
欠点は、殺人描写が直接的すぎることかな。
medium 霊媒探偵城塚翡翠
これも叙述トリック系。
「霊媒として死者の声を聴くことができる」翡翠と、「推理小説家で手がかりから論理を紡ぐことのできる」香月。
最初に答えを出してしまう翡翠と、その答えに客観的な証拠に関連付けていく香月、という設定が、まず面白い。
で、最後にひっくり返されてしまう。いやあ、これは・・・。裏の裏をかかれます。
今月からドラマが始まるみたいです。
漫画
漫画アプリは時間を無限に溶かしてしまうので、非常に危険ですが、日本漫画の裾野の広さがよくわかります。Twitter広告でも、知らない漫画にかなり出会いますが、アプリでカバーしている漫画には「これ、誰が誰のために描いているの? 聞いたこともない・・・」みたいな漫画だらけです。
喧嘩ばっかりしている漫画
これまではまったく興味のわかなかった、「ひたすら喧嘩ばっかりしている漫画」にはまり込んでしまいます。
『カメレオン』はひたすら下品で最低のギャグ満載、もう現代じゃ連載できないだろうなってモノ多数。作品へのコメントも、「これ、新規参入の若者じゃなくて、連載当時にリアルタイムで読んでたおっさんたちだな」ってよくわかる香ばしさはたまりません。「人気一位は松岡」は完全に同意。
『A-BOUT』も、ほんとに、ほんとにひたすら喧嘩していて、学校とか街とかで「テッペン」をとることにどうしてそこまで意義を見出せるのか、授業も受けないし暴虐の限りを尽くしているのになぜ退学(や)めないのか、謎だらけです。いや、卒業はしたいのかよって・・・。
とにかくずっと喧嘩してるんですが、キャラが立っているのと、そのキャラを壊さないきわめて繊細なラインでの高度なギャグ、このバランスが最高すぎるんですよね。
『ドンケツ』は893さんがひたすらに暴れまわっている漫画です。以前だったら表紙を見た段階で絶対読まなかった漫画ですが、食わず嫌いってもったいないですね。人気のある漫画にはやっぱり、それだけの理由があるんです。
ほんとにずっと争ってる(そして高校生の喧嘩よりえげつない)んですけど、芯の通ったストーリー、「喧嘩っぱやいが男気のある渋いヤクザ」というありがちな主人公象を真っ向から否定した主人公、取ってつけたようなオマケになりがちなサイドストーリーの面白さ、とってもレベルが高いです。まあとにかく喧嘩してるんで、その時点で合わない人は合わないと思います。
Twitterでも話題になって実際めちゃくちゃ面白い『ファブル』から『ナニワトモアレ』も読んだし、髙橋ヒロシさんのこれまた喧嘩しまくっている作品も読んだし、もうだいぶ喧嘩に疲れてきました。下期は純愛路線でいきます。
スポーツで燃えてる漫画
上期は『弱虫ペダル』で燃えてました。高校生の「自転車競技部」の漫画です。
主人公補正、ちょっと極端すぎる展開、突如後付けでさしはさまれるエピソードなどをおいてなお、スポーツ漫画のよいところを凝縮したような作品。自転車レースのことを何も知らなくても楽しめます。
1年生編のインターハイは、めちゃくちゃ燃えます、震えます。「巻島センパイ最高ショ」は完全に同意。
酒ばっかり飲んでる漫画
『神の雫』ですよね。
ワインの知識ゼロで読んでも大丈夫、むしろワインがどんどん飲みたくなるし、それに合わせて、いや「マリアージュさせて」、よいアテも食べたくなる。
主人公格2人の超絶なスペック(主人公は、猛吹雪のマッターホルンアタック中に、その頂上で開けられたワインの香りを嗅ぎあてることができる)と、よくストックが尽きなかったなと思うほどの異常なワイン表現力、続編の『マリアージュ』含めて最後までテンションを失わずに描き切った作品です。
なお、これを読んだ後も特にワインに詳しくはならなかったし、ワインもまだそこまでおいしいと思えません。
おわりに
総じて、たくさん漫画を読んだ半期でした。下期もたくさん漫画を読もうと思います。喧嘩とは無縁の、純愛路線でね。