ソフトウェアの品質を学びまくる

ソフトウェアの品質、ソフトウェアテストなどについて学んだことを記録するブログです。

2024年前半に読んで特によかった本

もう8月も終わりますが、2024年前半に読んだ本を振り返って、よかったな~と思うものを記録しておきます。

ソフトウェア開発

継続的デリバリーのソフトウェア工学

わたしの周りにも優れたスクラムコーチがいて、従来の発想から脱しきれないわたしに、アジャイルのエッセンスや考え方を辛抱強く共有してくれています。
そのうえで読む『継続的デリバリーのソフトウェア』は、わたしの蒙をさらに啓いてくれる良書でした。

実験主義、経験主義という言葉を軸に、「なぜアジャイルが今のような形になっているか」を繰り返し(時に冗長に?)教えてくれます。また「工学」というだけあって、単に思想的な部分だけでなく、技術的な説明も豊富です。

第4章のこのフレーズが、とても印象的です。

イテレーションの本質は、私たちが誤りを犯し、犯した誤りを正すことを認めることであり、学びを発展させ、広げていくことを認めることです。

ちょうど「失敗」について学んでいて、「失敗をどう生かすか」を考えていたわたしにとって、「アジャイルって、失敗を繰り返しまくるアプローチなんだ!」と膝を打ったのでした。
「アジャイルって、ウォーターフォールを短くして、エンジニアが好き勝手にやってるやつでしょ?」と考えがちな方にお勧めします。

ノンフィクション

評伝クリスチャン・ラッセン

クリスチャン・ラッセンという名前につきまとう、どこかうさんくさい雰囲気。そのラッセンを神格化するのではなく、そのうさんくささが何に起因するのかに踏み込んでいるのが、『評伝クリスチャン・ラッセン』です。

ラッセンの流行り廃りにとどまらず、「平成」という時代との関連性、本流美術からの扱われ方、かつて亡きものにされた戦争画との類似性など、思った以上に広いトピックを論じていて面白い。
たとえば「CR・ラッセンワールドMJ」というパチンコ台。これを単にラッセンの凋落とみるか、もっと別の背景・文脈があるとみるかで、本書では後者の立場を取っています。

日本における美術の位置づけについてもよく解説されており、タイトルで敬遠するのはもったいない良書でした。

深夜特急

『働かないふたり』という素晴らしいマンガがあるのですが、その主人公の一人である読書好きの兄が読んでいた本。

いやーこれは・・・。旅の良さがここに詰まっている
大学時代にこんなの読んでしまったら、熱に出したように旅に出てしまうんだろうなと思います。

ただ、この本で描写されているような「旅」は、現代では実現できないかもしれないなあと寂しく思ったりもします。今ほど海外旅行が当たり前でなかった時代の、無計画な旅。せめてその擬似体験を楽しめる。そんな本です。

学問

詭弁論理学

名前は固いのですが、自然言語や論理パズルなどを扱った本です。タイトルの通り、詭弁もたくさん扱っていて、その例にいちいち腹が立ってしまうのが難点です(笑)。

以下は、「相殺法」という詭弁の例。

「わたしの家の前に車を停めちゃ困るよ」
「おまえは車を停めたことがないのか?」

イラァ・・・。

ぶっちゃけ、詭弁ってけっこう強い武器なんですよね。聞けば誰もが「こいつの言い分は何かおかしいぞ」って感じるので、詭弁の使い手は嫌われる。でも、その武器の性質を知っておかないと反撃することができず、その場では言いくるめられてしまう。なので、身を守るために詭弁を知っておくことは重要だと思います。
またこの本はタイトル通り、「論理」の本でもあるので、論理学についても学ぶことができますよ。

詭弁といえば、このツイのクロコダインの詭弁(?)、とても好きです。

ビジネス

人生が整うマウンティング大全

『会議でスマートに見せる100の方法』が好きな人ならきっと気に入る、ジョークビジネス書です。
読んでいると、「ああ、いるいるこういう人!」となったり、「あ、これ自分もやってるかも・・」となります。
たとえば「時差ボケマウント」。

ロンドン→ニューヨーク→シカゴ→東京を1週間で回ったせいで、時差ボケのオンパレード。学生時代に夢見た世界一周はこんなんじゃなかった。

この「嘆いている感じ」がまたいやらしいんですよねえ・・!

これらの「事例」だけでも面白いのですが、第3章。ビジネスにおけるマウンティングの位置づけを、非常にそれっぽく語っています。
虚構新聞の文が本物の新聞みたいであるように、第3章は「いかにもビジネス書にありそうな言い回し」がすごい。たとえば

「マウント消費」の活性化が長期的な経済成長をもたらす
:
官民一体となって、マウンティングを起点とする日本発のイノベーションを生み出す枠組みを整備することが求められる。
:
マウンティング欲求を「手放す」のではなく、マウンティング欲求を「味方につける」ことを意識することを始めてみるといいだろう。

とっても、っぽくないですか? こういうの大好きです。

フィクション

FX戦士くるみちゃん

表紙で敬遠する人もいると思うのだけれど、「投資」をしている人なら胃痛が止まらない、FX投機のマンガです。とんでもない速度で含み損が増えていくシーン、チャートが思惑とは違う方向に突き抜けてしまう描写、もう見てられません。見てられないと言いながら、この作品と衝撃描写が癖になって、何度もリピってしまってます。。

「投資で人生一発大逆転できるのでは?」
「5%の利益を20回繰り返せば資産が2.5倍になる・・?」
などというグッドアイデアを思いついた人に読んでもらいたいマンガです。

AIとSF

AI大勃興時代の今まさに読んでおくべき渾身の短編集。
自分たちが生きている間に起きても何ら不思議のない事象、しかしまだ見たことのないはずの出来事が克明に描かれています。もちろんSFとしても面白い作品ばかり。特に生成AIの登場は、SFの世界を広げていると感じます。
これらはSFというより、「確定した未来」なのかもしれません。その意味で、ソフトウェア開発に関わっている人ならきっと楽しめる本だと思います。

不思議なのは、示し合わせたわけでもないだろうに、AIと仏教を組み合わせた作品が3つもある点。「意外なものの組み合わせ」はアイデアの基本とはいえ、組み合わせてみると何とも味わい深いです。

「仏師達は同時に仏像のAIへと真言(プロンプト)を彫り込んだ。」(『月下組討仏師』)

いや、熱過ぎる・・。

幻夏

これまでに読んだミステリーの中でも屈指の、「完璧な」作品の一つ。
警察が中心になるミステリーということであまり期待せず読んだのですが、素晴らしい作りでした。警察と司法が抱える問題を訴えながら、恐ろしく美しく回収されていく伏線、ミステリーとしての面白さなどが完全にマッチした作品です。

一方で、読んでいて苦しくなる作品でもあります。特に子供の話なので、親の立場になるとつらいです。
ただそれでも、単なるエンターテインメントに留まらないこの小説、ぜひ読んでもらいたいです。

おわりに

いやぁ、本って本当にいいもんですね。
2024年後半も、たくさん本を読みたいと思います。