2024年後半に読んだ本を振り返って、よかったな~と思うものを記録しておきます。
ソフトウェア開発
コード×AI
著者の服部さんのご講演を聴いてから読んだのですが、GitHub Copilotを使いこなした方の知恵がひたすらに詰まっていて、本当にいいです。「AIで何でもできる!」ではなく、
- AIがどこまでならうまくやれるのか、人間はそれをどう補完すべきなのか
- 人間によるレビューの必要性を踏まえて、どのような出力をさせるといいのか
というように、AIと人間の組み合わせの最適バランスを探っていく説明がわかりやすい。また、「関心の分離」「DRY原則」といったプログラミングのプラクティスが、生成AIを使ったプログラミングとの相性がいいことにも面白さを覚えました。
今後AIがどう進化していくのか、わたしにはまったくわかりませんが、一瞬で価値を失うようなノウハウ本でないことは確かだと思います。生成AIの使い方に関する本もけっこう読みまして、もちろんいい本もあったのですが、今考えてみるとやはり賞味期限が短い・・・と感じています。
アジャイル品質パターン「QA to AQ」
率直に言って、書かれていることすべてに納得できるわけではないし、「ん?」と思うような部分もけっこうあります。が、アジャイル開発における品質の考え方、それを語るうえでの言葉を定義して点で、やはり大事な文献だと考えています。
特に、ウォーターフォール中心の世界から転生してきて、アジャイルの考え方に戸惑っているような人にはオススメです。
わたしがそうだったのですが、「リリースの時点で、品質はカンペキになっているべきだ」という感覚だと、「その時に必要とされる品質に合意し、それを達成することが大切」という考え方*1が、「妥協」「品質の軽視」と見えてしまうんですよね。そういう方には、本書で紹介している「パターン」である「品質ロードマップ」「着陸ゾーン」といった考え方が役に立つと思います。
ただ繰り返しになりますが、すべてが「なるほど! これだ!」となるような本ではないので、アジャイル経験者・未経験者を交えて議論する読書会で読むのがいいと思います。逆に一人で読むとモヤモヤしそう。
ノンフィクション
対立の世界史図鑑
「正確で詳細な知識」を求める人には合わないだろうということを先に言っておくとして。
世界史に苦手意識があり、全体の流れもよくわからないから、ざっくり把握したい!って方(つまりわたし)にオススメしたい本です。歴史上の「対立」を、複雑さと情報量を、本質を失わないところまで落としたうえで、数ページで図解してくれます。よくある「見開き」ではさすがに無理なので、4~6ページにしたのは英断でしょう。
これで世界史を理解したことにはならないでしょうが、詳細に分け入る前の入口として、すごくよくまとまっていると感じます。
物語 ベルギーの歴史 ヨーロッパの十字路
「詳細に分け入る」本の一冊がこの本です。
仕事関連でブリュッセルに行く*2のをキッカケに手にした本です。
わたしにとってベルギーとは、中学時代に習った「ベネルクス三国」と、「ゴディバ」しか事前情報のない国でした。ヨーロッパの地図を見せられても、その位置を指すことはできなかったでしょう(今も少し怪しい)。観光本で「多言語国家」だと知って、へー。と思う程度の国。
が、その「多言語」という要素自体が、言ってみればベルギーの歴史そのものであり、そしてそれが今も続いている。言葉の違う人同士が仲良くなるのはサッカーの国際試合の時くらいだというくらい、オランダ語話者とフランス語話者の立場や関係が二転三転し、さらにはドイツ語話者もいて・・・と、とにかく複雑です。ベルギーの人に気軽に「あなたの母国語は?」と聞けなくなってしまいました。無知って怖いですね。。
なお今年から、「初めて訪れる国では、事前にその国の歴史の本を一冊読んでおく」プラクティスを実践しているのですが、これは本当に良いです。その国の全体観をふんわりとでも知っていくと、見えるものが少し違うように感じます。
オススメなのは、明石書店の『エリア・スタディーズ』。各地域の歴史から現代の各側面までを、複数の識者が網羅的に説明しています。ベルギー版は、上の本と同じ著者が編著されたものです。
ビジネス
ビジネス会食完全攻略マニュアル
ジョーク本ではありません。
取引先などと「会食をする」。それだけのことで分厚い一冊書けてしまうのか、と驚く本。
食事のマナーのマニュアルではない。会食をいかに計画し、実行し、完了するのかを、徹底的に解き明かした一冊なのです。
この本に通底するのは、「相手のことを徹底的に考える」という点。わたしから見ると、「さすがにそれはやり過ぎでは」「そこまではできないな」と思うような指南もあるのですが、短期的な打算ではなく、中長期的に良い関係を築くためには、その徹底さが必要なんだろうなと感じます。
また特に気に入ったのが、「店を道具のように捉えていない」ところ。
最近は簡単にオンライン予約ができるようになり、人数増減やコース変更はもちろん、キャンセルさえも、「相手にお詫びし、伝える」というステップを踏まない気軽なものになっています。これは飲食店を、「自分の都合で自由に動かせるリソース」のように捉えることにつながります。
「実務メソッド」「攻略マニュアル」と聞いて、そういう行為や発想を「テクニック」のように紹介しているのかと思ったら、さにあらず。筆者は、もてなす相手との関係を築くのと同じように、良い店とも長く続く関係を築くことを目指す。どうしてもキャンセルが発生してしまう分は、プライベートで店を訪れて埋め合わせる。
もてなす相手に対しても、店に対しても、誠意をもって接するのだという気概の伝わる本でした。
文学
えーえんとくちから
現代詩はホントに好みが分かれるので、わたしがこの詩集の中で好きになったものを2つ紹介します。
ひまわりの死んでいるのを抱きおこす 季節をひとつ弔うように
ひろゆき、と平仮名めきて呼ぶときの祖母の瞳のいつくしき黒
読めば意味はすんなりとわかる、でも自分からは千年待っても出てこない、そんな言葉たちです。
フィクション
ハコヅメ
よくあるお巡りさんドタバタ物語かと思ったら・・・。
いや、まずそういう感じで始まるのですが。で、そのドタバタだけでもめちゃくちゃ面白いのですが。
時々姿を現す不穏な感じ。その不穏さは、次のページにはあっさりかき消されてしまう。でも少し経つと、その不穏さがまた顔を出す。切れ味鋭いギャグ展開の中に、どうしても目をそらせない悪寒。
あまり書くと面白さを損なってしまうのですが、何度も「・・・は?」ってなりました。ギャグと伏線ミステリーの奇跡的なコラボだと思います。
地雷グリコ
大好き過ぎて、こちらで記事を書きました。
黒子のバスケ
めちゃくちゃ「週刊少年ジャンプ」だな!っていうマンガです。
ぶっちゃけ、バスケ×異能バトルといってもそう外していないと思うのですが、主人公・黒子テツヤの持つ能力は、ずば抜けていながらも万能ではない。というより、試合をするごとに効力を失っていく。そんな中、強大なライバルたちとどう伍していくか・・・。
と書くとやっぱりただの異能バトルのようになっちゃうのですが、「チームの絆」という物語の中に一本通った芯があり、「バスケットボール」というスポーツのラインをギリギリ踏み越えていないんですよ(多分)。
わたしは『テニスの王子様』のハチャメチャさも好きなのですが、あれはもう「確信犯」*3じゃないですか。対戦相手の五感を奪うとか、自分の周りにブラックホールを出現させるとか。
『黒子のバスケ』は違います。・・・いや、違うと言い切れないヤバい能力も出てくるけど・・・それでも「スポーツ青春マンガ」だと思います。
風が強く吹いている
で、結局わたしは「若者が頑張ってる姿」が好きなんだなと思って、『風が強く吹いている』を読み直してみました。
ほぼ素人ばかりの10人がいきなり箱根駅伝を目指してしまう時点でご都合主義的なところはあるにしても、若者一人一人がいろんな思いを抱え、走りの中で自分と向き合っていく姿が胸に迫る。
「なぜ、走る者のこの感覚を、想像で書けてしまうんだ? 本当に走りに走った人にしか到達できない、つかむことのできない感覚なのでは?」という描写にも驚かされます。小説家というのは、いったいどのような才能と感性をもって、自分の経験していないことを、文章として結実させていくのか。恐ろしいとしか言いようがない。
で、なぜこの小説を16年ぶりくらいに読んだかというと・・・
同じ「箱根」での戦いを、『弱虫ペダル』で読んだからです。
『弱虫ペダル』、途中までしか読めていないのですが、とにかく1年目のインターハイの物語完成度は100%なんですよ*4。自転車競技なんかまったく知らないのに、それなのに、胸を締め付けられるような緊張感と、感動。
この作品の中でずっと「凡人」と呼ばれ、自分を「弱い」と言い続けている手嶋先輩のモノローグを置いておきます。
オレだって期待されれば もっと頑張るのにって 思ってた
でもそれは 間違いだった
考えればあたり前のことだそうさ
頑張らないと
期待なんかされない!!――― 『弱虫ペダル 34巻』RIDE.290 凡人と天才
陳腐でしょうか? 陳腐かもしれません。
でも、切り抜かれた言葉ではなく、物語を通してみると、この言葉に詰まっている思いがわかると思います。
やっぱり歳なんですよね、若者たちがひたむきに、がむしゃらに頑張って何かをつかもうとする姿に、ぐっときちゃうんですよ。わたしの青春はこんな風に、何か一つのことに仲間と取り組むようなものではなかったので、フィクションで追体験させてもらってます。
若者の情熱からパワーを受け取りたい方へ。
おわりに
今年もまだ読み中のいい本がたくさんあるので、また共有したいなーと思います。
2025年もよろしくお願いします。
*1:この考え方がアジャイルの特徴だと言いたいわけではないです。ウォーターフォールでも同じ考え方はあったと思います。アジャイルについて下手に言及すると殴られそうで不要に言い訳がましいけど。。
*2:『人生が整うマウンティング大全』を読んで以来、海外に行くと言及すること自体に過敏になっている。
*3:間違った意味での。
*4:って2022年にも書いていた・・・。 www.kzsuzuki.com