ソフトウェアの品質を学びまくる

ソフトウェアの品質、ソフトウェアテストなどについて学んだことを記録するブログです。

自らの心の闇に直面させられる恐ろしいレビューのテキストが登場・・・!

 これまで、設計レビューに関する書籍の定番と言えば、Kerl E. Wiegers氏の『ピアレビュー』でした。そこに今年、新たな定番が加わりました。しかも、日本語で。

ピアレビュー

ピアレビュー

 

  それが、静岡大学森崎修司先生の『間違いだらけの設計レビュー』、通称「コーヒー本」[要出典]です。もともと『日経SYSTEMS』での連載をベースにしたものであり、かねてから書籍化を願っていただけに、とても嬉しい。

なぜ重大な問題を見逃すのか? 間違いだらけの設計レビュー

なぜ重大な問題を見逃すのか? 間違いだらけの設計レビュー

 

 二冊とも、対象としているのは「ピアレビュー」です。

 コーヒー本によると、ピアレビューとは「ドキュメントなどに含まれる問題の検出・指摘および関係者間の意識合わせを行う」ものであり、これがさらに、「ウォークスルー」「テクニカルレビュー」「インスペクション」の三つに分類されます。後のものほどフォーマル。

 『ピアレビュー』がフォーマル・インスペクションを主な対象としているのに対し、コーヒー本は、よりカジュアルなテクニカルレビューを中心に解説しています。このこともあってかこの二冊は、きれいに棲み分けているように思います。
 『ピアレビュー』は、比較的、ドライです。着眼点はたとえば、レビューに関するメトリクス、ROI、組織への導入、テンプレートなど、「管理者っぽい」印象を受けます。
 一方コーヒー本は、ウェットです。着眼点はまず何より、「マインド」。レビューがある意味で危険なコミュニケーションであることに常に念頭において、注意を促します。また、レビューの実際の進行を事細かに説明しており、「現場っぽい」印象です。
 わたしがコーヒー本の重要なポイントと思ったのは、次の三つです。
  1. レビューの終わりの考え方
  2. マインドの大切さ

 三つと書きましたが、二つでした。

レビューの終わりの考え方

 レビューは、何をもって終わるのでしょう。
 作成者が一方的に説明して、質疑応答して終わりでしょうか。それとも、目標とする「指摘件数」を決めて、それを達成すれば終わりなのでしょうか。
 わたしは特にこの、「レビュー欠陥密度」みたいな考え方があまり好きではありません。テストでの「バグ密度」にも賛否両論ありますが、レビューの欠陥密度はそれに輪をかけて、分母(欠陥数?)も分子(ページ数?)も曖昧だと思っています。*1
 コーヒー本では、上述のようなメトリクスについての言及はほとんどありません(つまり、否定しているわけでもない)。
 ではそういう数字なしに、じゃあどうやって「終わる」ことができるのか。そこで、「シナリオ」です。

シナリオとは

 コーヒー本では、レビューのリーダーが事前に、ドキュメントに対するチェック観点となる「シナリオ」を作成することを推奨しています。そしてそのシナリオのうち、レビューで見逃した場合に後々ひどい目にあう、ハイリスクな欠陥を対象とするシナリオから順に片付けていくという方法を提案しています。
 もちろん、すぐに気になってくることがあります。
 「シナリオの対象にならない欠陥はどうするんだ・・・」
 ここが発想の転換点なのだと思います。
 明確な観点もなく、対象のドキュメントをひと通り読んで、いろんな種類の欠陥を浅く広く見つけられれば、確かにレビューした気になれる。だけどそのコスト効果って本当に高いのか、ということですね。
 リスクの高い欠陥はとにかく取り除く、あとの軽微なものは見限る!この決意ができるかがポイントになりそうです。

課題もありそう

 そもそも、適切なシナリオを立てられる人間がいるのか、シナリオ自体のレビューはどうするのか、といった問題もあると思います。
 また、「リスクの高いシナリオは確認した」という表現は、エライ人にものすごく共感されない気がします。「いや全シナリオやれよ」と。
 また、エライ人が突然開眼して、「そうだ、このシナリオを、組織横断で全プロジェクトに適用すればいいじゃないか!よーし、みんなチェックリスト化しろ~」ってなって、無間チェックリスト地獄の釜が開くことも、容易に想像できますよね。
 シナリオの考え方は素晴らしく、ぜひ自分でもやってみたいです。でもものすごくパワーがいると思います。シナリオの有効性を理解したうえで、それをいかに現場に浸透させ、かつ形骸化を防ぐかという問題が立ちはだかりそうですよね。

マインドの大切さ

 コーヒー本の1/3くらいは、心理面での注意点に割かれているといってもよいでしょう。それほどまでに、レビューとは、「やらかしてしまう」イベントなのですね。本書に書かれたアンチパターンは、心当たりがありすぎて、猛烈な罪悪感なしには読めません。
 たとえば問題記録票の文面について、こういう注意があります。
例えば「~が一切ない」は「~がない」で伝わります。

 「一切」っておれも書いてるわ・・・あ、うん、時々だよ・・・?あまりにひどい時ね・・・。

 いや、そうなんですよ。「一切」とかいらないですよね、いらないんです。角が立つだけで、誰の得にもならない。
 こういう数々の「やらかし」が書かれていて、その度に自分の荒んだ心を読み取られているようで、 泣きながら一気に読みました。私もこれからこんなレビューをしてみたいなって思いました。こういうリアル心理を書けるのは、著者の森崎先生も同じ間違いを歩んできたからだと信じることで、心を鎮めている最中です。
 ということで、このコーヒー本、特に大きなコストをかけることもなく(?)レビューを改善できるものとして、とてもオススメでございます。
 なお、ご本人による紹介と、Itproでの関連記事へのリンクを載せておきます。

*1:もちろんこういったメトリクスでうまくやっている組織があるとは聞いています、レビュー祭りとかで。