ソフトウェアの品質を学びまくる

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槇原敬之さんに学ぶ 論理的文章のレッスン

 日頃、自然言語で書いた仕様書のレビューにおいて、「論理的でない」「わかりづらい」と指摘されたことはありませんか?
 ロジカルでわかりやすい文章は、どのように習得すればよいのでしょう。
 答えは、意外なところにありました。
 それは、「歌詞」です。
 特にシンガーソングライターは、いわば「言葉のプロ」。彼らの書いたテキストを繰り返し写経することで、みるみるうちに良い文章が書けるようになるはずです。
 シリーズ最終回の今回は、槇原敬之さんの歌詞の事例から、5つの注意ポイントに見て行きましょう。
EXPLORER

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 (1)否定の繰り返し

 否定の繰り返しは、文意の直感的な理解を妨げます。3つ以上の否定語を1つの文章に含めることは原則として避けましょう。
君がいないと何にもできないわけじゃないとヤカンを火にかけたけど紅茶のありかがわからない
(槇原敬之 - もう恋なんてしない)
 否定語が4つも入っています。
 結局、君がいれば紅茶のありかはわかったのでしょうか。

(2)全称命題の否定

 同歌詞で、「何にもできない」という全称命題を、「わけじゃない」と否定することで部分否定にしています。
 たとえば「クイズは全部正解できなかった」という文章のように、自然言語における部分否定は、全否定としばしば混同されるため、使用が推奨されません。

(3)自家撞着

 「この命題は偽である」「題名のない音楽会」のように、自身が矛盾を内包している命題を、プログラムの仕様として規定してはいけません。
もう恋なんてしないなんて言わないよ絶対
(もう恋なんてしない - 槇原敬之)
 言ってます。「絶対」って強調してるけど、言っています。

(4)否定論理の結合

 NOTを、ANDやORで結合した文章は、文意の理解を妨げます。
あの泥だらけのスニーカーじゃ追い越せないのは
電車でも時間でもなく 僕かも知れないけど
(槇原敬之 - どんなときも。)
 この歌詞の各命題を以下の記号に言い換え、得られた論理式をド・モルガンの法則で変換してみましょう。なお、ド・モルガンの法則については、コチラのエントリもご参照ください。
  • P: 追い越せる
  • D: 電車である
  • T: 時間である
  • M: 僕かも知れる

    ¬P ⇒ ¬T ∧ ¬D ∧ ¬M ⇔ ¬(T ∨ D ∨ M)
    P ⇒ T ∨ D ∨ M
 このような論理式の展開でNOTを減らすことによって、「あの泥だらけのスニーカーで追い越せるならば、電車か時間か僕かも知れるけど」という自然な日本語に言い換えることができます。

(5)特称命題の誤った演繹

 個別の事例を無制限に演繹する論理展開は、誤謬というより詭弁とさえ言えます。
人は必ず誰かに 愛されてると言えるよ
だって僕は今でも 君をとてもとても好きだから
(槇原敬之 - ズル休み)
 「君」が「僕」に好かれているからといって、任意の「人」が「誰か」に愛されていることを証明することはできません。そもそも、それを主張している「僕」が愛されていることすら不確実です。というよりこの歌は、別れた後の歌であり、最終的に以下のように歌われています。
人は必ず誰かに愛されていると思いたい
(槇原敬之 - ズル休み)
 これは単なる要求です。設計ではなく、要件定義の段階で整理すべきです。
* * * * *
 いかがだったでしょうか。
 論理的な文章を書くには、とにかく多くの文例に触れることです。
 情緒的・比喩的表現の少ない槇原敬之さんの文例をマスターすることで、誰にとってもわかりやすい、世界に一つだけのドキュメントを作ることができるようになるでしょう。
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