ソフトウェアの品質を学びまくる

ソフトウェアの品質、ソフトウェアテストなどについて学んだことを記録するブログです。

テストエンジニアの涅槃・ISTQB Expert Level。どこかにあるユートピア

 

 『ソフトウェアテスト教科書 JSTQB Foundation 第3版』が、日経SYSTEMSで紹介されていますね。
ソフトウェアテスト教科書 JSTQB Foundation 第3版

ソフトウェアテスト教科書 JSTQB Foundation 第3版

  • 作者: 大西建児,勝亦匡秀,佐々木方規,鈴木三紀夫,中野直樹,町田欣史,湯本剛,吉澤智美
  • 出版社/メーカー: 翔泳社
  • 発売日: 2011/11/12
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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  去年JSTQB Advanced Level(Test Manager) の認定を受けられたこともあり、テスト神たる「Expert Level」とはいかなるものか、調べてみることにしました。といってもシラバスはまだ公表されておらず、Overview という形で公開されています。

 このエントリーでは、その Overview を紹介します。

Overviewとは

 Overview では実質5ページ弱で、Expert Level の概要を説明しています。最新版であるVer.1.2[PDF]は、2009年5月に出たもの。3年近くが経っているので、現在ではより充実したものになっているでしょう。
 Overview ではまず、「what it means to be a testing expert」から始めています。意訳してみましょう。
エキスパートとは、テストに関する特定の分野で、際だったスキルと知識を持つ者なり。
エキスパートたるもの、修行と実践から生まれた特別なスキルと知識を持ち、またそれを示すべし。
 この、「特定の分野」「実践」というキーワードは、Overview の中で繰り返し強調されます。

module という考え方

 Advanced Level が、「Test Analyst」「Test Manager」「Technical Test Analyst」の3つのカテゴリに分かれているように、一言に「テストエンジニア」といっても、一本の道だけがあるわけではありません。
 Expert ともなると、そのすべての道を極めるのは困難。よってOverview では、「ソフトウェアテスト全般に通じていて、かつ、ある分野で傑出している」ことを求めています。この「分野」を「module」と呼び、module ごとにシラバス・テストがあります。
 module の例として挙がっているのが、以下です。
  1. テストマネジメント
  2. テスト自動化
  3. テストプロセス改善
  4. テスト設計
  5. 非機能要件のテスト
  6. レビュー・インスペクション
 このうち(1)(2)(3)は、すでに確定した module として検討が進んでいるようです。
 (2)は進歩が速く、また具体的な製品に依存する部分が多い module ではないでしょうか。ツールの適用そのものではなく、適用にあたっての戦略や検討、プロセスなどが問われるのかも知れません。Advanced Level には Technical Test Analyst があるので、それが参考になるかも知れませんね。
 (5)の非機能要件について、たとえば性能テストとセキュリティテストはまったく別物なので、別のモジュールになるのかも。

シラバスの形

 Expert Level のシラバスは、Foundation や Advanced みたく詳しくは書かないぜ、と言い切っています。また、「how ではなく what にフォーカス」とあります。一般的には、what より how の方が難しいように思いますが、これはどういう意味でしょう。
 おそらく Expert Level のシラバスは、それぞれの moduleで押さえておくべき事柄(Learning Object: LO と称しています)が簡単な説明とともに列挙されて、「how」については自分で学んでこいやというスタイルになるのではないでしょうか。
 先日しんすくさんが荒ぶって起ち上げた「テスト自動化・TABOK研究会」により、日本での普及が一気に進んだ(と推定される)TABOKが、たとえば(2)のシラバスから参照されたりするんでしょうかね。

受験資格

 「別にたくさんの人に Expert Level になって欲しいなんて思ってないんだからねっ」とツンデレっぷりを発揮したうえで、受験資格は以下の通り。
  1. ISTQB Advanced Level、あるいはそれに相当する資格
  2. できれば7年以上のテスト経験
 受験資格だけでなく、Expert Level のコース、そのプロバイダ・講師についても要件が定められています。
 多くの人が取得することを期待していないと言い放つ資格、しかも高度な知識と経験が求められる資格のために、コースが設けられるんだろうか・・・。ちなみに講師は Advanced Level のコンプが「強く望まれる」とのこと。

試験内容

 Foundation は単純な多肢選択。Advanced Level では複雑な多肢選択。そしてExpert Level では、小論文+多肢選択となりそうです。「与えられたトピックに対し、様々な視点から検討・比較し、結論を出す」ことを求められます。
 なお Expert Level においては、試験合格 = 認定GET★ ではありません!「Exit Requirements」という言葉を初めてみたのですが、試験合格後(?)に次のことも、おそらくAND条件で求められます。
  • 5年以上のテスト実践経験
  • 試験を受けた module における2年以上の経験
  • 最低1つの論文公開、または当該 module に関する発表
 資格の有効期間は5年。ですが5年後に再受験ではなく、PMPのようなクレジット制により、資格を維持できる形になるとのこと。

試験はいつから、どこで、どうやって?

 不明。この資格の問題を作れる天上人がどれだけいるかもわかりません。認定された瞬間に、主催者側になるんじゃないでしょうか。この qualification board のミーティングのイメージ、モノリス型ゼーレの会議ですもん。
 あまりに母集団の小さい資格なので、JSTQBも独自に開催するというよりは、英語版を日本語に訳して同時開催とか・・・。
 なのでアメリカでは朝9時に試験開始、日本では午前2時に開始的な。千駄ヶ谷に終電で向かうとかマジつれーわー。
 あるいはより practical なメソッドとして、試験と称して実在のデスマにテスト屋として放り込まれ、プロジェクトが黒字で完了したら合格。やり口はいろいろあるでしょう。
 JCSQE(ソフトウェア品質技術者資格認定)も、「上級って一体どうなっちゃうの?」的な話があると思いますが、ISTQBの Expert も久遠の果てです。
 テストエンジニアのガンダーラとはどこなのか。そこに行けばどんなバグも見つけられるというが・・・、遙かな世界ですね。

最後に

 Overview に typo を発見しました。
 P.7で、「although」が「allthough」になっています(ドヤァ