ソフトウェアの品質を学びまくる

ソフトウェアの品質、ソフトウェアテストなどについて学んだことを記録するブログです。

【本】カッコつけるんじゃあないッ!

 週刊誌の記事タイトルの、嫌味と侮辱に満ちたカッコ使いが嫌いだ。
週刊新潮 4月28日号
鎮まらぬ「福島第一原発」専門学者4人に訊く――このまま「冷温停止」か「再臨界」で「爆発危機」か 暴走「1号機」から「4号機」まで再点検する
 バラエティ番組で「ほら、面白いこと言ったよ!面白いと気づけなかったかも知れないから明示してあげたよ!」という押し付けがましいテロップが嫌いだ。大人を「オトナ」、仕事を「シゴト」と表現することで、真剣味を隠蔽し、「気軽さ」を偽装するようなカタカナ使いが嫌いだ。
 わたしには、嫌いな表現がたくさんありますが、それらがすべて「意味論」という1つの軸上で説明されるとは、思ってもみませんでした。
括弧の意味論

括弧の意味論

 

  たった今「意味論」とカッコを付けたのは、「わたしは『意味論』という言葉を正しく理解して使っているわけではなく、他者の言葉として使っています」という責任回避の意味を込めるためであり、「気軽さ」とカッコをつけたのは、「こんな表現で気軽さを演出しようなんて、安易だよね」という皮肉の意味を込めるためです。

 
 このように、カッコはたくさんの意味・役割をもちます。その働きを大きく分けると、統語論的カッコ、意味論的カッコ、その他があります。
 統語論的カッコとは、話したり思ったりしたことを示す、書名などを示す、記述の補足を示すといった役割。これは、最も基本的な使い方ですね。また、数学の演算では、要素同士の関係を示します。文章でも数式でも、その可読性を上げる役割を担うこともあります。
 意味論的カッコとは、英語の「scare quotes」に対して著者が与えた日本語訳であり、カッコで括ることにより、括られる側の意味が変容するという性質を持つことをいいます。
 ここでいうカッコは、カギカッコ・小カッコなど日常で使ういわゆる「カッコ」はもちろんですが、それだけだなく、週刊誌タイトルにおける地と文字を色反転させた表現や、「面白いでしょ」を押し付けるテロップ、「この一連の?議論?において・・・」といった意味不明の半疑問も、拡張された意味でのカッコとして、本書では扱われています。
 わたしはメールを書く際、顔文字はもちろん、「(笑)」を付けることにもひどく抵抗があります(モテないのはそのせいだと思う)が、この「(笑)」も、直前の文章をすべて「真剣に受け取らないでね」と注釈する意味をもつといってよいでしょう。わたしがこの表現に抵抗があるのはおそらく、「注釈を入れないとそのニュアンスを表現できない自分」と、「注釈を入れないと相手が理解できないという見積もり」がいやなんだと思います。
 
 全体的に、週刊誌などの卑近な例を引く部分と、言語論の深みに入っていく部分の落差が激しく、言語学の基本的知識を欠くわたしのような読者にはスキップしたくなる瞬間が多々ありますが、プログラミング言語からアジ演説まで、一見関係のないところから次々に話をもっていき、しまいにはカッコそれ自体とは直接関係なところにまで言及を広げていく展開が楽しい。一読の価値ありです。