「日本人ははっきりとNoを言わず、米国人は何でも包み隠さずに直言する」。
こういった「国民性のイメージ」は誰しも、多かれ少なかれ持っているでしょう。
さすがにそこまで単純ではないにせよ、考え方や習慣は、国や地域ごとに無視できない傾向があるようです。
「●●の国の人は約束の時間にルーズ」「▲▲の国の人は結論から話さない」、こういった国民性(のイメージ、場合によっては偏見)の断片を、もっとシステマティックに把握・理解することはできないものでしょうか。そして異文化のメンバーをチームを組む際に、効率的に信頼関係を築くことはできないでしょうか。
これに答えてくれるのが、Erin Meyer・著、『THE CULTURE MAP』です。
Erinさんは、ビジネスシーンで重要な要素を8つの軸で表現し、その軸上に各国をマッピングしています。
たとえば第1章で扱われる Communicating Scale。
この軸では、左に Low-context、右に High-context を配しています。
もっとも Low に位置するのが米国人で、もっとも High に位置するのが、わたしたち日本人。
ハイコンテキスト・ローコンテキストという言葉は、最近でもよく使われるようになってきましたね。
日本や中国のように、歴史が長く、人間関係が世代間を通じて継承されていくような国の人間は、「空気を読み」、相手の暗黙的なメッセージを拾い上げることに長けていると説明されます。
一方米国のように国としての歴史が短く、また多くの異文化が移民とともに入ってきたような国では、メッセージを明白に、できるだけ曖昧さを排除して表現することが重要とされています。
と、第1章のこの話はそんなに珍しい話ではありません。
ではそんなわたしたちは、部下に対するネガティブなフィードバックをどのように伝えるか。これが第2章のテーマです。
第2章で扱う Evaluating Scale は、部下を評価する際の伝え方を表したもので、左に Direct negative feedback、右に Indirect negative feedback を配した軸です。あからさまに伝えるか、オブラートに包むか、ということですね。
この2つの軸の4象限に国をマッピングしたのが、こちらです。
日本人は意外性なく、またもや一番右。直接的にネガティブなことを言わない強い傾向があります。
一方米国人。Communicating Scale では最も左にいた米国人が、Evaluating Scale では真ん中あたりに位置しています。
米国における評価では、「ネガティブなことを伝える前に3つポジティブなことを伝える。そして a few small suggestions といった前置きで、ネガティブなメッセージを極力やわらげて伝える」というのです。米国人は常にはっきりと物事を伝えるという単純なステレオタイプだけで米国人に接すると、大変な軋轢をもたらしかねないということですね。
第4章で議論される Leading Scale は、コミュニケーションの仕方に地位や役職がどの程度効いてくるかを表現したもの。左が Egalitarian(平等主義)、右が Hierarchical(階層主義)。日本がここでもまた Hierachical に全振りしているのに対し、米国は左寄り。階層間の壁が相対的に薄いとうことで、ここには意外性ないですよね。
一方第5章で扱う Deciding Scale、決定の手続きの傾向においては、米国は Consensual(コンセンサス型)ではなく、Top-down(トップダウン型)に寄っているんですね。ふだんのコミュニケーションにおいては比較的フラットな文化を持ちながら、決定においては地位の高いものの意見が強く優先される。これもまた「米国は人間関係がフラットだし、民主主義の国だから・・」などと思い込んでいると、誤ってしまいそうです。
さらに、そもそも「決定」の意味・重みが国によって異なるという要素もあり、話はさらに面白くなっていきます。
本書ではこのような軸8本を、それぞれ豊富な事例とともに紹介しています。
もちろんこの8本をもってなお、国民性を表現するには十分ではなく、依然としてステレオタイプの部分もあるのかもしれません。特に日本人を引き合いに出している部分を読むとやはり「そんなに単純じゃないよ」なんて思ってしまいます*1。また同じ国の人間でも、個々人の特性もそれぞれ異なるでしょう。
それでもなお、相対的な傾向と注意点を知っておくことには価値があると思います。
いきなり人を殴りつけることは万国共通で無礼だとしても、ある国で当たり前、むしろ適切であるとされることが、他の国では失礼・マナー違反・プロフェッショナルでない、と受け取られることが、思った以上に多いのだということを思い知らされるのです。
特に日本人は多くの軸において極端な位置にマッピングされており、変な民族なんだな~ということをあらためて感じさせられました。以下は、Harvard Business Reviewのサイトからの引用です。
なお本書は、比較的な平易な英語で書かれており、英語を読む練習をしたい人にはぴったりだと思います。Audibleで、オーディオブックも提供されています*2。
わたしは修業のため、オーディオブック+本書でシャドーイングしながら意識高く読みました。英語の勉強にも良いコンテンツです!