ソフトウェアの品質を学びまくる2.0

ソフトウェアの品質、ソフトウェアテストなどについて学んだことを記録するブログです。

地味に繰り広げられているソフトウェアテストの派閥争い

 コロコロコミック vs ボンボン、VHS vs ベータ、Mac vs WindowsVim vs Emacsきのこの山 vs たけのこの里IE vs Netscapeビックリマンチョコ vs ガムラツイストEU残留 vs EU離脱ビアンカ vs フローラ、高橋名人 vs 毛利名人・・・。
 たくさんの対立軸がある中、アジャイル vs ウォーターフォールの争いも、定期的に勃発しています。今回はここから始まったのでしょうか?

www.infoq.com

 アジャイル vs ウォーターフォールは開発方法論の争いですが、みなさん、ソフトウェアテストの世界にも陣営があることをご存知ですか? そんな話がこちらで紹介されていました。

Software Testing Schools: All we need is world peace.breakingembeddedsoftware.wordpress.com

 Software Testing Schools、ソフトウェアテストの学派」とでも訳しましょうか。
 この記事の筆者は、ソフトウェアテストの世界が”学派”で分断されている。平和が必要だ」と述べています。

いかなる学派があるのか

 記事では4つの学派を紹介しています。

  1. テストプロセス学派: 明文化された規格、認証、定義されたテストのプラクティスの考え方に重点をおく
  2. 品質保証学派: チェック、監査、プロジェクト計画や進行において従うべき管理に重点をおく
  3. アカデミックリサーチ学派: リサーチと、「テストとは、ツールと技法によって解決することのできる技術的な問題である」という信念をもつ
  4. コンテキスト駆動学派: 「テストとは、人の手による知的な活動であり、アプローチは各々の取り組みごとに異なるものなので、”ベスト”プラクティスなるものはなかろう」とする

 僕が認識していたのは「テストプロセス」と「コンテキスト駆動」でした。
 たとえばISO/IEC/IEEE 29119のような国際規格を策定し、ソフトウェアテストの標準化を図ろうとする前者と、「規格はテストの良さを損なう 」として抵抗する後者。これはStop 29119 Petitionという形で論争*1を引き起こしました。
 この「請願」の記事を書いた人の中には、探索的テストの推進者としても著名なJames Bach氏やMichael Bolton氏がおりますが、彼らはコンテキスト駆動アプローチを取る人たちです。

どの学派に入るべきなのか

 記事にはこう書かれています。「”普通の”テスターにとって、学派の分類などどうでもよい。テストでいい仕事をしたいだけだ」。その通りです。

 個人的には、規格はあってほしい。
 たとえばISTQBシラバス(規格ではないけれども)はプロセスや用語を定義することで、ソフトウェアテスト界隈の人たちの間でのコミュニケーションコストをすごく下げたと感じています。また、頭のいい人たちの考えた「網羅的なリスト」は役に立ちます。たとえばテストの切り口の1つとして、ISO/IEC 9126の品質特性を参考にする人も多いでしょう。
 ただ、それが「ルール」として押し付けられ、「ルールに準拠するための不必要な作業」が発生し始めた途端、規格に対する憎しみが生まれます。

 また、コンテキスト駆動のアプローチや、その周辺の人たちが提案しているRapid Software Testingは、「テストは人間らしい活動だ、楽しくやろうぜ」的なノリなので魅力的ではあるのですが、たとえば探索的テストだけやっていればいいとは思えませんし、「書かれたことだけを実行するのはそもそもテストじゃない、それはチェックだ」と言われても「じゃあチェックと呼ぶのはいいけど、チェックも必要ですよね」ってなります(手動でやるか自動化するかは別にして・・・)。

 西研究室のWebサイトにはこう書かれています。

あらゆる技術・手法・ツール・記法・規格・標準・法規は良い点と悪い点を備えています。そのどちらかからも目を背けることなく、かつ両者を技術的にフェアに理解することによって、技術・手法・ツール・記法・規格・標準・法規は適切に活用することができます。
私たちは日本の組織が、ISO/IEC/IEEE 29119シリーズが自組織に適しているかをきちんと判断し、導入すべきところと導入すべきでないところを見分け、盲目的に従うのではなく導入の目的にかなうように導入することを望んでいます。

 クリスマスも除夜の鐘も初詣もバレンタインデーもハロウィンも楽しんでしまう日本人なのですから、「いいとこどり」で仕事をしていきたいものですね。

 ただし「アカデミックリサーチ学派」には興味があるぞ? どういうことをやっているんだろう!?

付記

 ちなみに、JaSST Tokyoの基調講演は、2015年がMichael Bolton氏であり、2016年は29119シリーズのプロジェクトエディターであるJon Hagar氏でした。僕はJaSSTのこういう、よく言えば「バランス感覚に優れた」、もっと言うと「そういうの俺らには関係ないから」というファンキーっぷりが好きなんですよね。

*1:わたしも興味があったので、記事の一つを翻訳し、電通大の西氏のサイトに掲載していただきました。